アサザ基金の新たなチャレンジに皆様のご支援をお願いします。
アサザ基金の取り組みは、新たな段階に入ります。これまで皆様に御支援頂きながら進めてきた20年間にわたる取り組みの経験と実績を生かして、さらに大きな社会的課題の解決に向けチャレンジします。以前から取り組んできた霞ヶ浦や北浦、牛久沼流域での水源地保全再生事業を地域の産業として位置付け、10年以内に300ヘクタール規模、10事業地域以上に拡大し、さらに農業を社会の多様な分野と結び付け、湖沼や流域全体に社会や生態系に影響を及ぼす事業(持続可能な社会のモデル)へと発展させていきます。
霞ヶ浦等の流域全体に広がる深刻な事態、
水源地谷津田での耕作放棄問題に本格的に取り組む必要があります。
私たちがこのような決意を持つに至った理由があります。私たちは、これまで霞ヶ浦等の水源地で耕作放棄地対策を行って来ました。しかし、今後TPPや農家の高齢化、後継者不足等の社会状況の変化によってさらに耕作放棄地が急増し、事態がより深刻化することが予測されています。
流域全体に分布する数多くの谷津田が耕作放棄地になっていくと、湖沼の水循環が大きく乱れたり、水源地に生息してきた里山の生き物達に大きな影響を及ぼすことになるからです。また、荒廃によって谷津田の水田が持っていた治水機能が失われると、下流地域での洪水が増加する恐れがあります。もちろん、美しい里山の風景も失われます。
里山の命の箱舟、谷津田を流域レベルで守ります。
絶滅が心配されている里山の生き物の大半は、水源地である谷津田とその周囲に生息しています。メダカやホタルなど、数多くの生き物が、水源地周辺に身を寄せ辛うじて生き延びてきました。
それらの生き物達が生息地を確保する上で、地域の農業によって維持されてきた水田や小川、ため池などの水辺環境は極めて重要なものでした。特に、水源地では農薬の影響を避けることができたため、多くの貴重な動植物が生き残ることができました。しかし、これらの水源地谷津田での耕作放棄が進むと、水辺環境の維持が困難となり、周辺の里山環境にも大きな影響を与えます。
水田や小川などの水辺は放棄されると、草で覆われやがて枯草や土砂などに埋もれていって水面が無くなっていきます。水面が無くなると、メダカやホタル、カエル、トンボなどの生き物が棲家を失い、周囲の里山全体の生態系のバランスも崩してしまい、タカやフクロウ、キツネなどの高次の捕食者の生息も困難になってしまいます。
ウナギの復活も!目指します。
また、流域に広がる谷津田は最近絶滅危惧種となったウナギの重要な生息地でもあります。霞ヶ浦流域には、ウナギの生息地になる谷津田が数多くネットワーク状に分布していたので、日本一の天然ウナギ産地であったのです。ですから、この事業は霞ヶ浦のみならず日本のウナギの未来の命運を握る取り組みでもあります。
これらの谷津田を守っていかなければ、多くの生物が絶滅に追い込まれ、湖の再生も不可能になります。流域全体の谷津田ネットワークを何としても守らなければなりません。
農業の大規模効率化によって切り捨てられる谷津田や里山の農業
昨今の社会情勢の変化(TPP等)により、国内農業が大きな影響を受けることは、報道等をとおしてご存知だと思います。このような状況下で国は農業生産の効率化大規模化などの方針を示し、それらへの転換や投資を促しています。しかし、このような農業政策は大型機械や農薬、遺伝子操作などへの依存を強めることになるでしょう。
国の農業政策には、さらに大きな盲点があります。大きな社会問題となっている耕作放棄地の拡大です。耕作放棄地の全国での総面積は滋賀県と同じくらいあると言われています。それらの耕作放棄地の多くは、霞ヶ浦や牛久沼の流域にネットワーク状に分布する水源地谷津田のような面積が小さく泥深く大型機械が入れない水田です。
効率化大規模化を推進する農業の大半は、土地の広い地域に限られ、霞ヶ浦など水源地谷津田の様な効率化大規模化が困難な地域は除外されてしまいます。実は、これら条件の不利な地域ほど地域の生態系や水環境を支える上で大きな役割を果たしていることが理解されず、現在の政策では全く視野に入っていません。
企業や地域との協働による谷津田再生事業の実績を足がかりに
点から面へ、流域展開をはかります。
これまでも、アサザ基金では霞ヶ浦の再生に向けて、流域に数多く分布する谷津田の耕作放棄拡大を防止し水源地保全や生物多様性保全を図る取り組みを、企業や地域団体、住民と共に進めてきました。これらの取り組みは、地元の酒造会社や醤油醸造会社等との協働により、新たな地域ブランドの創出という形での地域活性化としても注目されてきました。しかし、それらの取り組みはまだ霞ヶ浦や北浦、牛久沼の各流域の特定の地域(点)としてのモデル事業の域を出ていません。
先述したように、今日の農業をめぐる環境は大きく変化し、耕作条件の不利な谷津田は、急速に耕作放棄が進んでいます。農業後継者の減少もあいまって、今後はさらに多くの谷津田の荒廃が進み、霞ヶ浦や牛久沼などの再生が困難な状況に陥る恐れがあります。
そこで、このような大きな社会問題の解決するために、私達は新たな体勢で取り組む決意を固めました。これまで企業等との協働で行ってきた谷津田再生事業での実績を生かして、活動の規模を点から面へと転換し実物大の社会モデルとして霞ヶ浦等の水源地保全を実現させるための事業を立ち上げます。この事業の推進役となるのが農業生産法人です。
水源地谷津田の特色を生かした
付加価値の高い農業生産システムの確立を目指します。
具体的には、流域に分布する谷津田での活動範囲を拡大するために、無農薬栽培で水源地の特色を生かした付加価値の高い米を生産し販売する事業を、農業生産法人によって推進します。アサザ基金には、これまで10年以上水源地に適した酒米の栽培を無農薬無肥料で行ってきた実績があります。良質の酒米の栽培には肥料分の少ない水、つまり水源地にある谷津田が適しています。最近は、良質の酒米の供給が酒蔵での需要に追い付かず、酒米不足の状況にあることから、私達が谷津田で生産する酒米にも十分な需要が見込めます。
また、ヒシクイ保護基金から引き継ぎ、18年以上の実績を持つ日本で初めての自然保護の産直米オオヒシクイ米の経験を生かして、産直米の生産も行っていく方針です。さらに、米以外の大豆、菜種等の栽培、田んぼの貸し出し制度オーナー制度や、首都圏に位置することを生かした里山でのエコツーリズムやグリーンツーリズム、バイオマスエネルギー、地産地消、エコカフェ、教育、福祉、地域づくり、アートなどの様々な取り組みへと展開していきたいと考えています。
生き物たちと相談しながら、生き物たちに評価してもらう農業を実現する。
今回農業生産法人として取り組む社会的意義は、水源地や生物多様性の保全を付加価値として持つ農産物の本格的な生産を行い社会に広く流通させることで、これらの価値を農業や社会全体に広く浸透させことにあります。霞ヶ浦など里山の生態系や生物多様性、景観等を維持すべき重要な価値として、社会全体で共有するシステムを実現させようというものです。これによって、トキやコウノトリ、オオヒシクイ、ウナギなどの生物が霞ヶ浦等の広大な流域全体に生息できる社会が実現されます。アサザ基金は、これまでもトキの舞う霞ヶ浦を目標に様々な取り組みを行ってきましたが、その実現に向け、さらに大きな次の一歩を踏み出します。
農業を社会の様々な活動と結び付けて、新たな価値を創造する場に。
私達は、アサザプロジェクトの20年間で培ってきた多様な分野とのネットワークを生かして、地域の農業を社会の多様な活動や分野と結び付け、その潜在的可能性を浮上させ、新たな価値を創造する場に変えていきたいと考えています。当面は、下記のような分野や人々と協働して取り組んでいく方針です。
・一次産業、農業、林業、内水面漁業、畜産業
・地場産業、酒、みそ、醤油など醸造業、煎餅や佃煮など加工業、魚粉・堆肥などの肥料製造業、BDF製造
・発電などのエネルギー産業
・企業、CSRとの連携、ビジネスモデルや技術開発
・観光、エコツーリズム、グリーンツーリズム、外国人向け日本文化体験
・スーパーなどの流通業、食品加工・販売、レストランなどのサービス業
・地方公共団体、小・中学校、福祉施設、研究機関
・グリーンコンシューマーとしての市民、企業
・NPO-全体最適推進のための企画立案・ネットワーク作り・調整機能を発揮する。
チャレンジし続けること、それがアサザ基金の社会的使命です。
農業生産法人による取り組みは、農産物をめぐる競争の中に飛び込むことでもあり、大きなリスクを伴うことも事実です。しかし、地域限定の理想郷(点)を所々作っていっても社会を本当に変えることは出来ません。アサザ基金は、これまで湖や里山から社会を変えるという理念の下、自然と共存する持続可能な社会の実現を目指して活動してきました。
この目標を実現するために、新たなチャレンジをしなければならない段階に入りました。私達は社会を変えるために、本格的な農業と同じ土俵に立ち、新たな価値を持って真っ向勝負を挑みたいと思います。
誰もが見離した条件の不利な農地を中心に、付加価値の高い農産物を生産し、水源地や生物多様性といった価値を共有する人々の輪を社会に大きく広げていく、誰もが出来ないと諦めていたことを、創造的な取り組みによって実現させる、イノベーションによって!
創造的な取り組みによってチャレンジし続けることがアサザ基金の社会的使命です。私たちは、これからも新しい現実を生産し続けていきます。私たちの新たなチャレンジへ皆様の応援をよろしくお願いします。
農業生産法人(株式会社)の設立についての質問や参加協力等は、アサザ基金の事務局へお気軽にお問い合わせください。
認定NPO法人アサザ基金 スタッフ一同