活動のキーワードは協働です
環境問題をめぐり、ともすれば対立関係になりがちな住民と行政(問題によっては企業も)間を、地域総参加という視点から協力関係で結べないか、また地域づくりは行政に依存していた住民が、持っている知恵と力と行動力を行政や企業に逆に働きかけて主体的に環境改善活動を担っていけないか、更に保護や維持にとどまらず、失われた環境の回復や向上につながる活動ができないか、この3点を潮来ジャランボプロジェクトは、水辺の再生に取り組む活動理念としました。
これは飯島氏らのアサザプロジェクトの理念に共感し、潮来に合った形で具現化したものです。
これから後アサザプロジェクトは更に漁協や森林組合など流域全体に活動の輪を広げ、100年後に朱鷺が舞う霞ヶ浦・北浦を、という壮大にして戦略的な未来を描き、このあと流域のほとんどの小学校と延べ10万人を超える人々が活動する形で運動が展開していくのです。
利根川水神様前・前川へアサザ植え付けを地域総参加で
(1997年6月、9月) 活動は手探りで始まりました。
1997年(平成9年)6月、十番のアサザステーションで育てたアサザの苗を特注の水中鉢植え器具へ移植し前川へ沈めました。
垂直護岸でアサザの繁茂には適さない水深の前川に何とか水生植物を植えようという苦心の方法です。
建設業組合、潮来遊覧船組合も参加しての作業でした。
この作業と並行して、さまざまな形の参加を得て利根川にアサザを植える計画を進めていました。
場所はJR高架橋の下、水神様前とし建設省の手で埋め立て工事をして浅瀬を造りました。
9月4日利根川に潮来と日の出小の5年生全員が集まりました。
送迎バスにホテルの車も用意され建設業 従業員の波消しづくりもすすみ、子供たちの歓声の中植え付けが終了しました。
建設省・県・町、建設業、小学校、遊覧船組合、観光協会、商工会、スーパーなど総参加者は256名でした。
住民主導で行政と企業・団体、住民を結ぶ環ができたのです。
【3】徳島小の植付会 すぐにザリガニに苗を切られ失敗。 このことがトンボ公園案につながる
■ 夢がふくらみビオトープ(トンボ公園)づくりに発展
(1997年9月~1998年5月) 1997年9月20日、徳島小学校全校生徒により徳島園地の一角にアサザが植えられました。
春先より校庭の池で育てられた苗が育ちこの日を迎えたのです。
(延方・大生原小は、神宮橋アサザ群落が新神宮橋建設により損なわれる恐れがあることから、北浦湖岸に代替措置で植付け場所が設置され、そこでの植付会が行われています)
ところが徳島小のアサザは翌日には大部分の苗が浮いてしまいました。
数年後はっきりと原因がわかたのですが犯人はザリガニでした。
この時、植付地調査のときから飯島氏にビオトープの好適地と評価されていた徳島園地を、ビオトープにしようという計画が急浮上したのです。
■ 徳島園地がビオトープとしてよみがえる
徳島園地は昭和62年県と町との間で整備に関する覚書が締結されました。
河川敷に環境庁による補助事業として国と県の折半で水生植物園(アヤメ園)をつくり、観光の新名所として年間80万人程度の新しい客を呼ぼうというもので平成5年にオープンしました。
ピクニック広場も併設した24,500平米の公園で、アヤメも植えられ地元や学校からミニサッカー場などの整備も要望されました。
しかしアヤメの栽培には水はけが悪く不向きで、荒廃しかかっており、トイレ・電気設備もなく利用度の低い河川敷でした。
しかし霞ヶ浦流域では貴重な河川敷で、しかも霞ヶ浦(西浦)と北浦の合流地点の外浪逆浦(ソトナサカウラ)に面して扇の要の位置にあり、水の要所です。
飯島氏は徳島園地をビオトープづくりに最適な場所と見たのです。
スケッチ程度の案を建設省霞ヶ浦工事事務所に持っていくと、戸谷所長の英断で積極的な応援を得られました。
霞ヶ浦をとりまく状況と国行政をよく知る人は一様に仰天しますが、地元住民の熱意と、自然と生き物を知り尽くす飯島氏の計画を戸谷所長は、霞ヶ浦には今こそ必要と飯島氏とは異なる感性で判断を下したのでしょう。
これを起点にアサザプロジェクト運動は更なる展開をし、今や全国の環境NPO活動の最前線にいます。
ジャランボプロジェクトはすばやく次の行動にでました。
潮来町に持ちかけ、議員・学校・地元住民・ジャランボで協議会が作られ、案が更に具体化していきました。
建設省には「水辺の楽校」登録を要望し、開園後の6月認められています。
この楽校は優れた水辺整備の構想をもつ市町村を登録し、行政と市民・ボランティア団体が協議会をつくり水辺の学習計画を立て活動するのを支援しよう、というものです。
98年に入ると更に計画は煮詰まり、2月には地元住民と建設業者80名が参加し江間が掘られ、ハンノ木が植えられ、全小学校でアサザ・オニバスなど水生植物が育成されることになりました。
3月末には工事業者が決定し早速綿密な打ち合わせが行われ、4月8日より着工されました。
開園後の徳島小の水辺の観察会をNHKが取材。生徒に囲まれた東ちづるさん
工事は順調に進み、4月11日江間掘りで余った土砂でカワセミの営巣地を作り始めると、未完成の19日には待ちきれないように巣作りの穴を掘り始め、急きょヨシズで野鳥観察所を作りました。
通水テスト、看板づくり、小学校との打ち合わせも終了、万事万端整って5月10日の開園式を迎えました。
大江間の水辺に立てられたトンボ形の看板に描かれた 飯島博氏による河童
■ 利根川水神様前・前川へアサザ植え付けを地域総参加で
■ 98年1月より5月10日の開園までに要した費用と人手の一覧
要した費用 | 作業参加者 | 無償提供されたもの |
野鳥観察所よしず、ペンキなど 71,895 事務用品、計画書印刷代など 34,785 胴長・エンピ、鎌など備品 52,275 苗育成用バケツなど植栽資材 108,704 食事・茶菓子、保険、通信、写真代 74,137 |
作業参加者 454名 打ち合わせなど 70名 |
ユンボ、ブルトーザー、トッラク、トラクターなどの重機 おにぎり、弁当、シジミ汁、茶菓子、飲み物など食料品 公園作りのノウハウ、調査など スダジイなど樹木多数 |
合計 341,796 | 合計 524名 |
トンボ公園の役割
飯島氏は設計段階で、トンボ公園という名のビオトープに5つの機能を取り入れました。
1水質浄化(潮来方式と呼ぶ)
湖水をポンプアップし、水路や水深の浅い・深い水域を通して効果よく浄化し湖水に戻す。
食物連鎖網と多様な水環境の連鎖系による自浄作用の仕組みを生かした水質浄化を図る。
2生物多様性の保全
アサザ、ガガブタ、オニバス、ミクリ、田字草など絶滅の恐れのある植物を栽培し、湖に戻す供給基地とする。
また植物栽培によって多様な生物の生息環境を保全する。
3水産資源の保護
湖と池・江間の温度差で移動と産卵を促す。
浅い水面はプランクトンが大量発生し、仔稚魚のエサとなる。
魚は汚濁の原因物質をエサにし水質を浄化する。
観光資源(景観づくり)
珍しい花々(②の植物のほかにミズアオイ、コウホネ、カキツバタなど)やトンボ、小魚とり、心なごむ水辺の風景など、ゆったりと時間が流れる場。
エコツーリズムの最適な場。
環境学習の場
魚の産卵などの観察、トンボ捕り、水質調査、水草の植え付け、ドロンコ池での遊びなどを通して水質浄化のメカニズム、環境と生き物との関係など総合的な学習が身につく場
潮来方式と呼ぶ水質浄化は特別な方法ではありません。
川や湖が持っていた 浄化能力(自然治癒力)を取り戻すため、手助けする方法です。
水面に所せましと葉を広げるアサザは、水質汚染の大きな原因である窒素・リン を栄養として取込みます。
その一方でアサザは蛾など虫たちのよき餌であり水鳥 たちの食料でもあるのです。
つまり、アサザなど水生植物によって大量に吸い上げられた水中の窒素・リンは 虫や鳥たちによって陸地に運ばれ水質の浄化につながるのです。
トンボもヤゴの 時代は水中で過ごし、陸上に移動し鳥などの餌となり食物連鎖の働きとなります。
変化に富んだ多様な水辺の環境と、そこに適応した多用な生き物をはぐくむこ うした機能を、本来川や湖は持っていました。
すなわち生物が生まれ育つのに好適 といわれる浅く複雑な水辺環境です。
霞ヶ浦がコンクリート護岸で覆われる前までは潮来でも見られた景観です。
この水辺を再生することが潮来に水郷の景観と、豊かな自然を取り戻すことになるのです。
私たちが目指すもの、それが「水辺の再生」です。
■ 公園管理の楽しみ
建設省・潮来町・協議会(ジャランボ)三者はトンボ公園の機能を高めていくため管理協定を結びました。
ポンプの維持や大規模な補修は建設省、江間の大規模な補修などは潮来町、各池・水路・分水施設(水口)の日常的管理、樹木や園路の管理、アサザなど水生植物の育成、水田などはジャランボの役割で、市民団体が協定に加わることも画期的なことと評価されました。
開園後数回の手直し工事もジャランボの要請を受けて建設省が行い、今も市民が中心となって公園を育て行政がそれをバックアップする形が続いています。
さまざまな人々が トンボ公園を舞台に さまざまに楽しんでいます。
■ 管理は1年中をとおして行われます
5月の開園準備からカキツバタ、コウホネ、アサザ、オニバス、ミズアオイと続く花の季節は多忙です。
黙って公園の草刈をしてくれる方、花を見て喜んでくれる方、子供の歓声、小鳥のさえずり、鯉、フナののっこみなどは管理する上で喜びです。
自然の恵みを感じるからです。
反対にゴミを捨てる人、鯉釣り用に江間のタニシを根こそぎ盗む人、外来魚(ブラックバス)を池に放す釣り人、音楽など大きな音を平気で立てて鳥たちをおどかす人など、心無い人の行為はさびしいものです。
ウキヤガラという抽水植物を抜くボランティアの筑波大、玉川大学生
日本古来のカキツバタ
公園で早めに咲きだすコウホネ
水辺の再生運動を象徴するアサザ
田の字のデンジソウ
ネムノキ
葉が1mを超えるオニバス
夕方カワセミ田の稲につく水滴。昔はサルコと呼ばれ、サルコがでたから作業終了という合図になったそうです。
一面の紫でトンボ公園の人気花ミズアオイ。上手に咲かすのも難しい花
雪の公園
除草と撹乱を起こし土中の種子の芽出しを促進させるためトラクターで耕起
麻生富田のアサザ群落
■ 市民に愛され、各地から注目されています
公園は散歩や子供たちの遊び場として市民に利用されています。またビオトープとして学習の場に利用したり、見学に訪れる方も大勢います。
WWF(世界自然保護基金)やJICA(国際協力機構)関係で東南アジア、 アフリカなど海外から、国内では沖縄から宮城まで、職業も研究者・学生、国・県・市会議員、弁護士、行政職員、小学校、幼稚園、老人大学、市民団体などさまざまです。
事務局で記録している日誌を数えると、7年間で100件、2500人を超える人が来園されています。
アサザ基金の100年構想の最終目標は「朱鷺(トキ)の舞う霞ヶ浦」ですが、朱鷺保護活動している佐渡からも来ていただきました。
イギリス出身の作家で環境保護活動家のC・Wニコルさんを囲んで
衆議院議員小宮山洋子さん
右平成13年の河川功労者に選ばれ、山澤福会長が表彰式に出席