霞ヶ浦・北浦流域では、森林面積が流域面積の2割までに減少し、また近年荒廃しています。
この里山・森林を手入れし、切り出された枝や間伐材を、湖岸再生に役立てます。
森林の手入れは、顧用創出、地域活性化に結びつきます。
里山文化も育ちます。
湖と森と人とがつながる
<H2>雑木林の手入れは、主に一般市民のボランティアで行われる</H2>
「一日きこり」です。
冬の恒例行事になったこの行事には毎回多くの参加者が集まります。
流域の里山が、こんなにたくさん元気になりました(▲)。
粗朶消波施設設置計画の概念
伝統工法が、アサザやヨシを波から守る
市民による公共事業:湖岸自然再生事業。
植えつけたばかりのアサザやヨシは、まだ赤ちゃん。
自立できるまでは波から守る必要があります。
すぐに思い浮かぶのは、コンクリートの壁や石積みの設備による消波施設です。
確かに波は抑えられますが、アサザが自立して増えようとした時、邪魔になってしまいます。
魚も沖と浅瀬を行き来できなくなってしまいます。
そこでどのような施設がいいのかと考えると・・・
・アサザの広がりや生物の移動を阻害しない構造が必要です。
・アサザが自立して自分で波を弱められるようになる頃、無くなってくれたらベストです。
・さらに、余分なお金や資源がかからず
・作るのが難しくなく
・魚床にもなる
・・・こんな消波施設があったらいい。
答えはちゃんと見つかりました。
川の堤防を守るために使われていた、江戸時代の伝統技術、粗朶消波施設です。
粗朶消波施設とは、水底に丸太を打ち込んで枠を作り、中に雑木の枝の束(=粗朶)を入れたものです。(農文協「日本農書全集」)
アサザが自立する頃には枝が抜け、崩れて消失します。
隙間が適度にあるので水はよどまず、魚も通り抜けられます。
見えにくかった沈水植物の役割に気づく
大きな気づきがありました。
上で延べた粗朶の役割は、実は自然界では、沈水植物が果たしているということです。
自然界では、下の図のようにアサザなどの浮葉植物のすぐ沖側に沈水植物が繁り、沖からの強い波の衝撃を最初に吸収するのです。
粗朶消波施設はまさにこの役割の肩代わりだったのです。
残念ながら、沈水植物は現在の霞ヶ浦ではアサザ以上に見られなくなっています。
水の透明度が悪い霞ヶ浦では、太陽光が届かないので育つことができないのです。
アサザプロジェクトによる効果がもっと出て、水の透明度が高くなったら沈水植物も育つことができるようになるでしょう。
それまでは粗朶消波施設の出番は続きそうです。
粗朶を設置して4年、植生帯が広がりました
効果はご覧の通りです。目に見えて植生帯が豊かになりました。
●粗朶消波施設による波消し 1998年
●湖岸に多様な植物群落を再生 2001年
伝統工法の今日的な意味~農書にみる「人格を持った技術」
近代土木技術は、河川や湖沼の日常的維持管理を市民の手の届かないものにした。
行政や研究者が寄って立つ科学知には普遍性はあっても、専門分化が著しく地域を総体として把握できないという欠点がある。
数値のみで構成した施策を地域に持ち込むことで、自然や生活のあらゆる場面での分断が生じ、地域の一体感が失われてしまう例が少なくない。
実際に多くの河川や湖沼はこのような施策によって、地域の生活や文化から切り離されていった。
河川や湖沼における水質汚濁や生物多様性の低下といった問題の背景には、この「分断化」がある。
近代土木技術に偏重した発想を転換しない限り、水辺の再生を願う人々は主体的に水辺の保全や再生に関わることはできない。
伝統河川工法では、材料は現地調達が原則であり、技術もその土地に合った構造と仕組みを作り上げるもので、人々の生活とのつながりを意識したものであった。
伝統工法には土地や住民と関係性をもった技術が使われていた。
そこにはまた、生活者の経験知が生かされる場があった。
今河川や湖沼と地域住民との結び付きを取り戻そうとする活動に必要なのは、伝統工法に見るような関係性を生み出す技術である。
アサザプロジェクトを構想したときには伝統工法に関する文献や資料なども参考にしたが、とくに、多くの示唆を得ることができたのが三河国の「百姓伝記」や甲斐国の「川除仕様帳」などの農書だった。
農書は江戸時代に日本各地で作られた民間の農業技術書である。現代の技術書とは違い自然のきめ細かな観察や人間の五感を重視した技術が論じられ、またその内容は人生論にまで及び、実に多岐にわたる。
とくに、わたしが農書から強く感じたことは、多様な分野を総合する個々の人格について論じている点である。
つまり、技術が経験知の集成である人格と切り離されては語られていないことだ。
このことは、20世紀に起きた技術の暴走(大量殺戮や自然破壊)を体験したわたしたちにはとりわけ大きな意味を持つのではないか。
わたしたちに必要なのは、科学知と経験知の協働である。
粗朶消波施設の設置について
霞ヶ浦では1990年頃から石積みの大規模な消波堤が各地で設置され始めていました。
この石積み消波堤は水域を分断し、水流を妨げ、ヘドロの堆積を促すなどの環境への影響が大きいため、私たちは危機感を強め、それらの設置を中止するように国交省(建設省)に再三申し入れてきました(申し入れ書等で中止を申し入れてきたのは私たちの市民団体だけです)。
しかし、石積み消波堤の設置がその後も継続されたため、波浪に対して治水上や住民からの強い要望等がありやむを得ない場合に代替案として、恒久的に水域を分断し透過性の無い石積み消波施設による決定的な破壊を回避することを目的に、将来撤去可能で透過性が高い粗朶消波施設の設置を行なうように国交省に提案をしてきました。
国交省では波浪対策として一部を粗朶消波施設にしましたが(大半の対策地域は石積み消波堤)、これらについてはアサザ基金が要望をして設置されたものではありません。
アサザ基金は原則として波浪対策事業に反対を表明しています。
さらに、これらの波浪対策事業に対しては事前調査と事後調査を行ない公表するように申し入れ書を再三国交省に提出しています。
霞ヶ浦で設置されている大規模石積み消波施設に関する申し入れ(pdf)
蓮河原地区・境島地区波浪対策工事(石積み消波堤設置)の中止を求める申し入れ書(pdf)
アサザ基金が提案をして設置した粗朶消波施設もありますが、それらは主に1996年以来の水位上昇管理によって衰退が進んでいたアサザ群落や抽水植物群落の再生を促すために設置したもので、その中でも境島(旧東町・潮来町)や根田(旧出島村)などは湖内で特に波浪が大きい地域です。その他にも波浪の強い地域にアサザの群落が見られますが、それらすべてに粗朶消波施設を設置したわけではありません。
さらに、アサザ保全のために設置した粗朶消波施設は、アサザが群落を形成した段階で撤去することを前提にしています。
また、それらの粗朶消波施設の設置にあたっては、事前の調査が行われ当時国交省が設置した各分野の専門家が参加した委員会において設置の必要性や効果の予測、環境への影響等の議論を公開で行なっています。設置後もモニタリングが継続されています。
詳しくは国土交通省霞ヶ浦事務所WEB内、「霞ヶ浦の湖岸植生帯の保全にかかる検討会」会議資料や「霞ヶ浦湖岸植生帯の緊急保全対策評価検討会;中間評価 」、河川環境管理財団のWEB内の資料等をご覧ください。
アサザ基金による独自の調査も専門家の協力を得て実施してきました。
アサザ基金では粗朶消波施設を水質改善が進むまで再生の見込めない沈水植物群落の代替機能として位置付けています。
調査の結果、粗朶消波施設は沈水植物群落に近い消波効果があり、在来の魚類(ワカサギの稚魚など)の生息場所として機能することも分かって来ました。
実際に、粗朶は最近まで湖内の漁業で利用されてきました。同時に、石積み消波堤での調査も行ない、底質のヘドロ化や生息環境の悪化を確認しています。
沈水植物群落の再生はアサザプロジェクトの目標のひとつですが、そのためには湖の水質改善が不可欠です。アサザプロジェクトはその目標達成へ向けて流域ぐるみでの水質改善を進める取組みを行なっています。
例えば、水源地・谷津田の再生事業や外来魚駆除と魚粉の肥料化、環境保全型農業の推進、流域全域での環境教育の推進、廃食油の回収事業、森林保全と再生などを広域展開する努力を続けています(これらの取組みについては、アサザ基金のホームページをご覧ください)。
尚、一部に上記の波浪対策事業による粗朶消波施設や石積み消波堤の設置をアサザ基金が国交省に要望してきたといった意図的に誤解を広めようとする情報が流されていますが、これらは全く事実に反するものです。また、これらの消波施設で起きている現象(砂浜が消滅した、水質が悪化した、粗朶の流出、トチカガミなどが過繁茂など)を、アサザ基金が関わる粗朶消波施設で起きているかのように伝え批判する一部市民団体関係者があることは残念です。
この関係者には8年ほど前から事実関係を示し事実確認を行なうように求めていますが、「消波施設はみんな同じだ。アサザ基金が国を動かして設置している」等と云った主張を繰り広げ事態を混乱させ続けています。重複しますが、アサザ基金ではそれらの波浪対策事業による消波施設の設置にはこれまで一貫して反対をしてきました。
現在は、上記一部の人によって行なわれた粗朶消波施設への誤解と混乱を招く批判によって、波浪対策事業では現在すべてが石積みの消波堤になってしましました。
今年度も大規模な石積みの消波施設の設置工事が行われ、環境破壊が深刻化しています。
アサザ基金では、継続して国交省にそれらの設置の中止を申し入れていますが、粗朶消波施設を批判する一部市民団体関係者(大学関係者もこの市民団体のメンバーです)からは、これらの石積み消波堤への中止申し入れ等は一切ありません(その一方で、相変わらずアサザ基金が消波堤設置を要望している等の事実に反する批判を続けています。また、事実に忠実であるべき学会等でもこのような主張が繰り広げられていることは科学の信頼性を損なうものであり深刻です)。
誠意ある研究者の皆様には、事実関係をご確認いただき、学問の世界の健全化に向けて、科学的客観的な批判が行われることを期待しています。
また、私たちの取組みは現在多岐にわたっていますので、それらについての科学的な評価をしていただける研究者を求めています。
その他、疑問の点等がありましたら、アサザ基金に問い合わせを頂くようお願いします。