① トキの住む鹿嶋市を目指して 子どもと大人の協働のまちづくりin山之上withUBS RICEprojectとは
北浦の重要な水源地となっている鹿嶋市山之上地区の谷津田。周囲には鹿島神宮の摂社である坂戸神社を始め由緒ある神社が数多く分布し、今も荘厳な景観が残っています。この谷津田と鹿島神宮の森は昔、つながっていました。それは700年代に編纂された常陸国風土記にも記載されています。しかし現在は市街化によって森は分断され、谷津田も荒廃が進んでいます。
そこで子ども達、地域の人々、都市の学校や企業が協力して谷津田を再生させようという取り組みが2007年に始まりました。再生した谷津田ではもち米、酒米を栽培しています。酒米は地域の酒蔵で日本酒に醸造されます。もち米はお餅となって地元のお祭りなどで販売されます。
谷津田の再生は生き物を呼ぶだけでなく、北浦に清らかな水を届けることにもつながります。鹿島神宮の大木にトキやコウノトリが巣をかけ、谷津田にエサをとりに出かける。そんな鹿嶋市を100年かけて実現させようという構想です。また、このプロジェクトは世界的な金融機関であるUBSと協働で行っています。
② トキの住む鹿嶋市を目指して 子どもと大人の協働のまちづくりin山之上withUBS RICEprojectの特徴・意義
このプロジェクトは子どもの提案から始まり、その後の運営は地域にできた新たな組織が行っています。山之上谷津田再生協議会というその組織は、公民館、自治会、小学校PTAなど既存のコミュニティに他の場所から転居してきた人も加わり、発足しました。この協議会は、自然再生推進法に基づく協議会と異なり、地域住民が自主的に組織を運営することで継続的・発展的に事業が行われています。また、既存のコミュニティと連携する事で、流域レベルの広域ネットワークの中で新たな取組みを地域に根付かせます。
プロジェクトは、機械の使用が困難である圃場整備されていない枝谷津の再生からスタートしました。このような場所は、一般に自然度が高く、元々希少種や絶滅危惧種などが残っています。その為再生の効果も現われやすいです場所ですが、この谷津田の大半を占める圃場整備された水田では既に生物多様性が失われています。今後、枝谷津と連続している圃場整備された水田も併せて保全する事が決定しています。プロジェクトを行っている谷津田は霞ヶ浦・北浦流域でも有数の規模を誇る場所ですので、圃場整備された水田における生物多様性保全が実現されれば、広大な面積の保全が可能になり、トキを呼び戻す夢が近づきます。
③ トキの住む鹿嶋市を目指して 子どもと大人の協働のまちづくりin山之上withUBS RICEprojectの効果
・再生した谷津田は枝谷津上流部にあり、豊かな湧水量のある自然度が高い場所です。再生の効果は大きく、生物多様性が大幅に向上しています。
・都市の企業や学生と、農村の交流が生まれ地域が活性化しています。
・谷津田で収穫した酒米は、地域の伝統的な酒蔵である愛友酒造株式会社で醸造され、純米原酒が出来上がります。お酒の一部は、水源地再生の酒広がれあさざの夢として一般販売されます。日本酒の市場が縮小傾向にある中、本プロジェクトは地場産業の活性化にもつながっています。
・地域の子どもの提案から始まったこの取組みはその後も地域の環境教育の場となっています。
④トキの住む鹿嶋市を目指して 子どもと大人の協働のまちづくりin山之上withUBS RICEprojectの活動内容
谷津田を中心とする周囲の畑や森林の再生、維持活動を行っています。日ごろの管理は月に2回、山之上谷津田再生協議会が行っています。作業後、自然に囲まれた中での昼ごはんも楽しみのひとつ。会員同士の近況を語り合う場としても役立っています。
プロジェクトのパートナーであるUBSはスイスに本社を置く外資系の会社で、社員一人一人の地域貢献に対する意欲が高く、積極的にプロジェクトに参加して下さっています。田植えや草取り、稲刈りなどの際にはイベントを開き、地域の方も参加するので、様々な交流が生まれています。参加者には海外の出身者も多く、日本文化を理解する場になっています。
その他にも様々な人が谷津田に訪れています。東京で活動する「ナナハン実行委員会」もその一つ。普段東京で暮らす若者が田んぼでの作業を通して地元の方と交流しています。また、2012年からは原宿にある田中千代ファッションカレッジとの交流も始まりました。山之上と原宿。一見関係のない組み合わせに思えますが、実は原宿もかつては谷津田が広がっていた場所。山之上は原宿の原風景なのです。普段ファッションを学ぶ学生が山之上で農作業をしたり、山之上の人が原宿に行って餅つきをするなど交流は広がっています。
地域活性化
一度価値を失い荒廃した谷津田が、都市との交流を通して生物多様性や水源地保全という新たな社会的価値を持ちました。それにより新たな取組みが次々と生まれ、地域が活性化しています。活動拠点は公民館で、鹿嶋市が進める各地区の公民館を中心としたまちづくりのモデルになっています。
環境教育
この取組みは豊郷小学校の環境教育がきっかけで始動しました。子ども達が地域の問題に気付き、大人と話合いをして再生が実現しました。知識を与えるだけの教育と異なり、問題の気付きから解決まで行う一連の環境教育を実践しました。
社会を変える
霞ヶ浦・北浦流域という広範囲を視野に入れたプロジェクトを地域に根差した取組みにする為には、伝統的な地域コミュニティと協働で取組む事が有効です。
企業との協働
谷津田の再生は、グローバルな金融機関であるUBSと協働で行っています。社員一人一人の地域貢献に対する意識が非常に高い企業です。このプロジェクトは社員の皆さんが活躍する場になっています。また、海外出身の方が日本文化を理解する場になっています。
循環型社会
この取組みは、循環型社会によって維持されてきた伝統的な里山景観の再生を通して、関る人がこれからの循環型社会の発想を得る場になっています。
自然再生、生物多様性
再生した枝谷津の上流部分は元々生物多様性の豊かな場所でした。再生の効果は大きくホットスポットになっています。今後、この枝谷津に連続している圃場整備された水田の保全を開始し、より広大な面積の生物多様性保全を目指します。そして北浦を始め水系全体への生物供給源とします。