北九州
環境都市として知られる北九州市では、2008年からアサザプロジェクトをモデルにした環境学習が進められています。
湯川小学校では、2008年から5年生の皆さん(90名)が北九州市の特色(良さ)を活かした未来の都市づくりをテーマに学習を進めてきました。
ビオトープ作りや地域の環境調査、お年寄りからの聞き取りなどを重ねながら、100万人都市の中心部にもまだ生息していることが分かったハグロトンボを、涼のシンボルとする未来の環境都市作りの提案をまとめていきました。
また、2009年になってから同様の授業を市内を流れる紫川の上流にある市丸小学校と下流部にある清水小学校でも行っています。
湯川小学校は紫川の中流部に近いことから、3校が連携して流域レベルでの学習へと展開する可能性も見えてきました。
湯川小学校の子ども達は、2009年の6月に市内で開催された市主催の環境シンポジウムで多くの大人たちを前に、ハグロトンボを指標とした新たな都市作りに向けた市民へのアンケート調査を提案しました。
子ども達の郷土への思いと発表内容のレベルの高さは、大人たちに大きな刺激を与えたようです。
その後、市では湯川小学校の子ども達の提案を受け、この夏から市民に呼び掛けハグロトンボをはじめとしたトンボの生息情報に関するアンケート調査を開始しました。
紫川を軸に環境都市の担い手を育てる環境学習プログラム
学習の目的
北九州市を流れる代表的な河川である紫川に生息する生物の観察をとおして、まちの特色や良さ、可能性を知る。生き物の目(他者の視点)になって、普段見慣れたまちの風景を見直してみることで、様々な発見を促します。
紫川の学習をとおして、地域の特色や良さを活かしたまちづくりを考え、未来に展望をもち前向きな提案をできる力(生きる力)を育てます。我がまちに誇りを持てるようになります。
学習の進め方
「川をとおした地域間のつながりに気付く。」
自然が少なくなった都市部にも、自然の豊かな上流部から様々な生き物が紫川をとおして供給されていることを知る。川は生き物の道。
地図や衛星画像を使って、北九州市全体のつながりを考える。
「昔と今をくらべ、違いに気付く。」(世代間交流)
昔のまち(学区内)には、どこにどんな生き物が見られたかをお年寄りなどから聞き取り、現在の生き物の分布と比較してみることで、まちの環境の変化を知ることと同時に、昔のように生き物たちのすみかを増やしていきたいという目標を持つ。
過去の記録から地域の持つ潜在的な豊かさ(かつての豊かさ)を知る。
「深める。上流と下流の学校間の交流」
かつて下流部にも生息していた生き物たちが紫川上流部に生息していることを知る。
紫川をとおして、再びまちに豊かな自然を取り戻すことが可能であると感じ、未来に展望を持つことができる。
「環境都市北九州市の未来を考え提案する。」
地球温暖化やヒートアイランド、水質汚濁などの環境問題への解決策をそれぞれ個別に考えるのではなく、紫川をとおして学んだ生き物や自然のつながり(まちの特色や良さ)を活かした未来のまちづくりとして総合化して提案する。
「問題解決能力・生きる力」
地域の課題や問題に対して前向きに価値創造的に取組む力を身につける。
紫川の自然を活かした具体的なまちの未来図を描いてみる。
様々な提案を自ら考え発表する。
「紫川に生息するハグロトンボを教材とした学習の例」
紫川上流部に多く生息するハグロトンボは、現在下流の都市部でも少数ではあるが確認することができる(全国の他の大都市ではほとんど見られなくなっているトンボである)。
ハグロトンボはきれいな水が流れる川に生息するトンボで、このトンボが現在下流に生息することは、紫川の水質浄化の取組みの成果として見ることができる。
また、ハグロトンボは暑さに弱く川周辺の涼風や木陰が在る場所を探して生息する。ハグロトンボの移動にはそれらが線状または飛び石状に配置されていることが必要となる。
聞き取りなどから過去と現在のハグロトンボの分布の比較をすることで、まち全体の涼しさの変化を知ることができる。(ハグロトンボは黒いという特色があり他に似たトンボが少なく昔から人々に親しまれてきたことなどから見分けやすく聞き取りの対象にしやすい。)
川風や海風、緑地等が涼しさを生み出す要素として考えられるので、それらの分布を過去と現在でくらべ、ハグロトンボの分布図と重ね合わせてみる。
上述したようなハグロトンボの生息に必要な環境要素は、環境都市北九州市が取り組む「河川の水質保全」や「脱温暖化」「ヒートアイランド防止」などの目標に一致する。また、最近注目されている「生物多様性の保全」と一致する指標種でもある。
具体的な生物の視点で考えることで、多様な課題をつなげることができる(総合化)。
環境都市の実現に向けて、生徒達がハグロトンボの生息地を広げるために、どのような取組みをすればいいのかを総合的に考え、未来のまちづくり案として提案する。
例えば、緑地や水辺(ビオトープ)を増やす、屋上緑化、緑のカーテン、ヨシズ、打ち水作戦、エアコンや自動車をなるべく使わない、省エネ、水質浄化、川の自然再生など。
また、上流部では、北九州市全体に、紫川をとおして生物を供給することができる源として地元を位置付け、自分たちの地域の自然をより豊かにすることを考え提案する。例えば、環境保全型農業の推進や森林の保全活動、川の水質浄化、自然再生、上下流の交流など。
ハグロトンボ以外にも他の多くの生物を対象にすることで、紫川の上流下流それぞれの地域の特色を理解し、市全体を視野に入れた環境学習を進めていくことができる。
NPO法人アサザ基金 代表理事 飯島 博