秋田

おかえり八郎太郎プロジェクトとは?

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秋田県八郎潟(はちろうがた)では、地域で伝承されてきた物語の力を生かした伝説の竜を呼び戻す『おかえり八郎太郎物語』を軸に、八郎潟の環境再生と地域活性化が一体化した「持続可能社会モデルの構築」と「未来を担う子どもたちの人材育成」を目指すプロジェクトを行っています!
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プロジェクトの舞台は、秋田県・男鹿半島の付け根に位置する八郎潟です。
八郎潟はかつて、日本に2番目に大きな豊かな潟湖でした。
東西約12km南北約27kmに広がる汽水湖で、平均水深は3m・最深部でも4~5mと非常に浅いことが特徴です。
水は透きとおって美しく、モグ(沈水植物)が潟全体に生え、そこにはさまざまな生きものが暮らしていました。
モグは、乾燥させたものが生活用品や肥料などに使われ、大正期には採取量が年間5万4000トンあったと記録があります。
これは全国一の出荷量でした。
「水一升魚五合」と言われるほどシジミやワカサギなどがとれ、八郎潟の佃煮は名産として県外に出荷され評判でした。
ワカサギ漁につかった「打瀬(うたせ)船」は霞ヶ浦から伝わったもので、広く浅く海の近くにある湖ということも霞ヶ浦とよく似た湖です。
周辺に暮らす人々は八郎潟を「わが湖」と表すほど潟を身近に感じ、誇りにし、大切にしていました。
八郎潟には、昔から地域の人の間で語り継がれてきた伝説の竜・八郎太郎が主人公の物語『八郎太郎物語』 があります。
地域の人は竜を通して、潟と人、生きもの、天候や山・川などの自然、田沢湖や十和田湖など他の湖などさまざまなつながりを感じながら暮らしてきました。

昭和32年に戦後の農業近代化の象徴である干拓事業が行われ、岸が護岸され、防潮水門が閉鎖され海とのつながりが絶たれ淡水湖になりました。
それに伴い年々水質が悪化。最近はアオコが大発生するなどの問題を抱えています。
「ブラックバスの聖地」と言われるほど外来魚も増え、生物多様性も低下、モグやシジミもほぼ絶滅し、人々が寄りつかない潟になってしまいました。
八郎太郎物語では「八郎太郎は干拓後、潟からいなくなってしまった」と伝えられ、物語も地域では語られることが少なくなっています。
また、秋田では少子高齢化が進み、地域活性化と未来を担う人材育成が大きな課題となっています。
八郎潟を再生するためには、地域の人々(特に未来を担う若者や子どもたち)が忘れられつつある地域の特徴や魅力を掘り起し、それを最大限生かしながら地域に新たな文脈(物語)を生み出していくことが必要です。

「八郎太郎物語はかつて竜が暮らしていた頃の物語、でもこれからは、みんなで竜が八郎潟に帰ってくる『新しい八郎太郎物語』を作ろう!」と、2004年から秋田県秋田地域振興局とアサザ基金が協働で、『おかえり八郎太郎物語』を軸にした八郎潟再生事業がはじまりました。
この事業では、霞ヶ浦のアサザプロジェクトをモデルにしたさまざまな取り組みを行ってきました。
八郎太郎を呼び戻すことは、八郎潟流域全体で失われつつあった自然や地域のつながりを取り戻していくことと重なります。
この物語の作り手であり登場人物は、地域の人ひとりひとりです。特に、地域の子どもたちの環境学習が中心となって動いていきます。
八郎太郎を呼び戻す(八郎潟再生)ためには、想像力にあふれた子どもたちから生み出される既存の社会の枠組みにとらわれない自由な発想で事業を起こしていくことが必要です。
子どもたちが学習を通して地域の宝物を掘り起し、夢や可能性を地域の人々が共有し合うことで、行政や他人任せではなく地域の人ひとりひとりが協力しあいながら八郎潟全体で失われつつあったつながり(ネットワーク)を取り戻し、物語を自分たちの手で紡いでいきます。

この物語には、江戸~大正にかけて貧農村救済のために尽力した秋田の老農・石川理紀之助翁の精神を、現代版に読み替え活かしていきます。
理紀之助翁は八郎潟近くの山田村(現潟上市昭和豊川山田)出身で、「経済は人にありて法にあらず」「寝てゐて人を起こすこと勿れ」という考えのもと、農村改革と地域の自立、人材育成を目的に、行政に頼らず自分が率先して行動し続けた人です。
理紀之助翁が行った偉業の一つに『適産調べ』があります。
これは「調査は即実践であり、即教育の場であり、人物養成―農村教育」という大目的のもと、地域の若者と農村を隅々まで調査し、地域資源を掘りおこし、その地域資源を活かしたこれからの農村経営計画を作り実施していくことで、農村の未来を担うリーダーを育成していくものです。
この適産調べを現代に読み替え、地域の子どもたちが八郎潟流域の調査をおこない、この調査を通して八郎潟再生計画(八郎太郎を呼び戻す物語づくり)を立て実践していく『子ども適産調べ』を行います。
『子ども適産調べ』を通して、子どもたちを地域の未来を担うリーダーとなる人材に育てていきます。
子どもたちが地域資源を生かす方法を学習することで、将来地域で自ら事業を興す人を増やし、県外への人口流出を防いでいくことにもつながります。

秋田県の八郎湖では、<おかえり八郎太郎物語>が広がり、人々が動き始めています。
これまでにのべ1万人以上の子どもたちへの小中学校の環境学習をはじめ、アサザプロジェクトをモデルにした魚粉事業や湖岸の植生帯再生事業、水源地保全事業、流域ブランドの創出など行っています。

子どもたちによる八郎湖流域ブランドを提案
秋田の子どもたちによる八郎潟流域ブランド創出の試みも始まっています。
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潟上市立大久保小学校(現大豊小学校)の4年生の子どもたち(70名)と、2008年の2学期からブランドづくりの総合学習を始め、3学期までに何度も議論を重ねながらようやく皆のアイデアや想いを溶け込ませたデザインが出来上がりました。
この授業は毎回「企画会議」という名称で呼ばれ、毎回県の職員も参加して、生徒たち全員には「企画委員」の名札が配られ、教室には「企画室」と書いた紙が貼られました。
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子ども達から出された様々なアイデアをひとつにまとめていく作業は困難を極めました。
しかし、「多数決はしない」という皆の意見を基に毎回徹底的に議論をする中で、違いを乗り越える全く新しい発想やアイデアが必ず飛び出してきました。
このような形で作業が進められていく様子を目の当たりにして、違いを飲み込みながら融合していく子ども達の想像力の豊かさに、改めて感心させられました。
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5・6年生になった子どもたちは地元の特産である八郎潟産の佃煮にブランドシールを貼ってもらえるよう佃煮屋さんと交渉し、6年生の冬、ブランドシールを貼った佃煮が佃煮屋さんの店頭や道の駅に並びました。
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2012年には、東京のJR上野駅でも八郎潟を大切に思う方々が作った農産物にシールを貼って販売しました。
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<おかえり八郎太郎物語>が地域を超え八郎潟と都会の人々の心をつなぎ、活動の輪が少しずつ広がっています。

このような取り組みを通して八郎湖流域では、地域に新しい価値を創造し起業する力を持つ担い手づくりが着実に進んでいます。
実際に、プロジェクトに参加した子どもたちからは、「大人になったら秋田に残って社長になって自分で事業を興し、八郎湖を再生していきたい」という声も出ています。
(のものパンフレットPDF)

今後も、若者と子どもたち、お年寄りの協働事業など、これまでの取り組みをもとにさらに発展した活動を行っていく予定です。

みんなでつくるおかえり八郎太郎プロジェクトの特徴・意義

・地域に伝わる「物語」を軸にしたプロジェクトです。
地域の自然観や歴史などがつまっている「八郎太郎物語」を軸にして進めていくことで、たくさんの人の共感を呼び、プロジェクトを進めていきます。
・地域の大人・若者と子どもたちが主役です。
行政主体で進められることが多い自然再生事業ですが、八郎潟流域では地域の子どもや大人の想いや願いをもとにプロジェクトを進めていきます。
・水源地~田~川~まち~湖の流域全体での取り組みです。
八郎潟の水源地~潟までの流域全体で自然再生をしていくことができます。
・世界一高齢化が進むエリアである秋田県で行う地域活性化と環境保全と一体化した取り組みです。

おかえり八郎太郎プロジェクトの効果

・八郎潟の流域全体で行う自然再生・生物多様性保全
・地域活性化・地域ブランドの構築
・未来を担う子どもたちや若者の人材育成

おかえり八郎太郎プロジェクトの活動内容

・環境教育(子ども適産調べ)
・地域の若者との協働
・都会でのマルシェ開催

おかえり八郎太郎プロジェクトの位置づけ

●地域活性化…少子高齢化が進む地方に根ざした子どもたちが地域の特色を熟知し、地域に新たなつながりを生み出し、中央の発想に依存しない独自の発想で地域に新しい物語を生み出していくことができる人材育成をしていきます。
●環境教育…単に自然の知識を植えつけるのではなく、その土地に眠る物語(文脈・つながり)を読み取る力を養い、地域の価値を再発見していく学習を八郎湖再生という困難な課題を学習題材に行っていくことで、将来さまざまな問題に立ち向かっていく力・意欲を育みます。
●社会を変える…世界で最も少子高齢化が進む秋田県で、環境再生を軸に地域に眠る資源や人材を最大限に活かして地域に新しい価値を生み出していく事業を自ら興すことができる人材を育成していくことで、人口流出を食い止め、中央依存の社会から脱却し地方が自立・発展していくこれからの地域社会のモデルを作ります。
●企業との協働…このプロジェクトを通して浮上してくる地域の価値や文脈を企業のビジネスモデル(独自性)に浸透させ、秋田から全国へブランド化した商品やビジネスモデルを発信し、ヒト・モノ・カネのダイナミックな動きをつくり出していきます。
●循環型社会……八郎潟流域(森~川~町~湖)の水循環と生態系をベースに、流域内の地域資源を活かした新たな循環型の取り組みを生み出していきます。
●自然再生・生物多様性…八郎潟流域全体を視野に入れた生態系保全を目標に、自然のつながりを取り戻していく社会システムの構築し、人材育成・地域ブランドの創出を進めていきます。

 
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